卒業生の声
卒業生の方々から現在の仕事や数理工学専攻についての声をお寄せいただきました.
(50音順)
江本源一さん
入社以来、化学プロセス(主に石油化学)の制御や最適化に関わる仕事に従事
してきましたが、そこでは数理工学で学んだ数理計画(線形/非線形最適化)
や制御の知識が役にたちました。未だに大学時代のテキストは時々役に立って
います。ただ、数理工学で学んだ知識のみでは不十分で、入社後、物理化学、
化学工学、などは独学または会社の教育などを通じて勉強しなければなりませ
んでした。最近の装置産業、特に化学、石油精製、の世界では計算機の飛躍的
な能力向上に伴い大規模なシステムのリアルタイム最適化やスケジューリング
が研究や実用化のホットな話題の一つであり、数理工学的素養(特に最適化)
が必要とされています。
現在、私は自動車会社で電子技術の業務に携わっています。
最近の自動車は多くのマイクロコンピュータが使用されており、それを制御するため
のプログラムも非常に大規模・複雑化してきています。
組み込み機器に使用されるマイクロコンピュータは処理能力・メモリ容量に非常に厳
しい制限があります。
そこで自動車会社にとって、この制約条件(処理能力・メモリ容量)の中で目的とす
る制御(性能・商品性)を行えるかどうかを判定することが重要な課題となります。
これは、最適化数理の考え方が必要とされる課題です。
学生時代は実社会で、最適化の研究が活かせる分野があるか疑問に思ったこともある
のですが、実は非常に様々な分野で必要とされる研究テーマであると実感しています。
今、学生時代を振り返って思うことは、京都大学の数理工学科には各分野の非常に優
秀な先生や学生が揃っており、また京都という土地も非常に研究に適した場所で恵ま
れた環境にあるということです。
学生時代を、そんな数理工学で過ごせたことは貴重な経験でした。
今でも仕事で最適化の知識が必要になる度に、もっとしっかり研究にとりくんでおけ
ば良かったと思うことも度々です。
私は1984年工学部数理工学科卒、1986年工学研究科数理工学専攻修士課程修了、
1989年に博士後期課程を修了し、現在三菱電機株式会社産業システム研究所に勤務し
ています。会社に入って早10年が経ち、日頃の仕事に追われて学生時代の思い出も薄
れがちになってしまいましたが、今回数理ホームページの「卒業生の声」への執筆依
頼を受けた機会に、私の学生時代の研究と現在の業務について拙筆ながら紹介させて
いただきます。
コロキウムというのは、教官から学生まで研究室の全員が参加し、等しく持
ち回りで、現在自分が取り組んでいるテーマを発表(学生の発表は修士2回の
み)し、その研究テーマについて論議しあうものです。今から思えば、レベル
の低い学生にも発表も議論も等しく参加させるというのは、すごかったなと思
いますが、こういうところで学生といえどもフラットに扱うところは伝統かと
思います。どうでもいいことですが、確か発表の順番までくじ引きで公平に決
めていたのが妙に印象に残っています。私などは発表するだけで精一杯で、か
つ助教授・助手の前で発表しなければならないので、発表前はプレッシャーが
大きかったのを覚えています。
私のいた頃の研究室は、岩井教授が助教授で、上野助教授が助手でしたので、
今の研究室もあまり変わらないかと思いますが、良い意味で教官と学生の隔た
りがあまりなく、真面目にテーマに取り組んでおれば、実に根気強く懇切丁寧
に指導していただけるところが非常にあり難かったと思います。
最後に簡単ではありますが、私の勤めている会社での仕事につきましてご紹
介しようと思います。今は人事関係の仕事をしていますので、今の仕事を紹介
するよりも、数理ということで、以前配属していた部署で取り組んでおりまし
た、自動車保険の保険数理について触れようと思います。
従来、保険業界は、護送船団といわれる行政の規制が強い業界で、どの会社
も同じ料率(算定会という料率算出団体が算出した料率)を使用して安穏とし
ていました。それが、ここ数年、金融ビックバンによる規制緩和・自由化で競
争が厳しくなり、他業界のように、より消費者ニーズに応える会社が生き残る
方向に動いております。
柴田雅博さん
問題は簡単すぎましたが、なんとなく最適化数理とはどんなことを
やるかってイメージが湧いたと思います。
さて、私が研究室で取り組んだテーマの一つに最小費用流問題というのがあります。
これは、始点から終点にいくまでいろいろなルートがあり、
そのルートを通るのにかかる費用が異なるという前提で、
必要な量のものを流すのに一番コストのかからないルートを発見するという問題で
数理工学では有名で、かつ実用的なものです
(例えばネットワークや流通業に適用できます)。
どうでしょう、上で取り上げた問題と非常に似通っていますね。
ということで私はテーマとしてこれに取り組んだのですが、
同じように身近な何かを最適にしたいと思っている方、
一度最適化数理を勉強してみたら・・・
現在は弊社における情報インフラの整備を行っております。
具体的にはネットワーク機器の最適設計を担当していて、ルータやハブ、
そしてサーバなどのネットワークを構成するのに必要な機器を
どこにどのように設置したらいいかを考えています。その際に重要視するのは、
ある地点に負荷がかかりすぎてネットワークが遅くならないようにすることで
あります。そのためには、データがどのルートを通るのがいいかとか、
ネットワークの最高速度をどうすればいいかを考えなければなりません。
前者ですが、これはネットワーク上の最適化問題その物であります。今の目的は
データを速く送り、かつ、特定の枝に負荷をかけないということであります。
これを数値的には解析しませんが、上記の最小費用流問題を解くノウハウ
(解はどのあたりかという予想)はかなりこの設計にいかされていると思います。
後者の方も、ある意味最適化数理の代表的な問題であり、投資をするときに
最大の効果を得るためには、どこにどれだけ投資すればいいかというのに
通じるものがあります。ネットワークの最高速度は速くすればするほど快適なのは
当然ですが、会社ですから当然費用というものも考えなくてはなりません。
従って、どこを速くすれば一番効果が大きいかということは
当然考えなくてはいけないのであって、
その際に学生時代勉強した最適化数理の基本が大きく生かされていると思います。
以上、簡単に業務について説明しましたが、結構最適化数理というものは、
どこにでも必要とされるています。というよりは、
企業が生き残るために最適なシステムをより追求している時代でありますので、
最も必要なのかもしれませんね・・・
田邊弘樹さん
辻野雅之さん
2,3年先に必要になると考えられる超高速IPネットワークサービ
ス上で提供する付加サービス(セキュリティのレベルが高いサービス,
通信品質を保証するサービス等)の企画,及び,開発.
現在の仕事と直接の関わりはございませんが,以下のような部分で役に立った,
または,今後役に立つだろうと考えます.
中沢誠司さん
平成9年(1997年)最適化数理分野(福島研)修了
(現在、トヨタ自動車株式会社勤務)
西村茂樹さん
ITS関連のアルゴリズム開発(交通信号制御,配送計画システム等)
現在,私が携わっている交通は元来,ORとの関連の深い分野の一つです.
その中で,特に最近注目が集まりつつある,ITS(Intelligent Transport
System)の目的は,「より安全に」,「より速く」,「より快適に」を計算機
を用いて実現することであり,特に「より 速く」を実現するためには最適化,
特に組み合わせ最適化の技術が 不可欠です.
特にタブー探索や遺伝的アルゴリズムなどのメタヒューリスティックスを種々
の問題に利用することが多い今日この頃です.
平位隆史さん
1989年 博士課程修了(制御理論講座(現,制御システム論分野))
勤務先:三菱電機株式会社
所属:産業システム研究所センシングシステム開発部
私は4回生の時に制御理論研究室(当時は片山教授が助教授をしておられました)
に配属され、卒業研究として画像復元のテーマを選んで以来、ずっと画像処理関係の
研究を行ってきて、学位論文も「Studies on Restoration and Parameter
Identification of 2-D Images」というテーマでなんとか学位を頂くことができま
した。学生時代に一番困ったことは、大学院進学が決まり、卒論も目処が立った時期
に、ある日突然指導教官である片山先生の愛媛大学への転勤を聞かされたことでした
。期間はちょうど私が修士課程に在学していた2年間でした。今日のように情報通信
が発達した時代であれば、メールやインターネットでそれほど距離を感じることはな
く研究ができるのでしょうが、15年前の状況では先生が月に1回京都に来られるとき
に集中講義を受け、ゼミをすることが自分の研究の頼りで、非常に心細い思いをした
ものです。本当のところは監督がいなくて野放し状態の我々は別の所に力を入れてい
たかも知れませんが…。今から思えば、かなり時間のあった当時にもっといろんなこ
とに興味を持って幅広い知識を得ておくんだったと少々後悔もしています。
三菱電機に入社後は、志望通り産業システム研究所において画像処理システムの開
発業務に就くことができました。入社後約6年間は電力プラントの設備監視や侵入監
視のシステム開発に従事した後、音響による異常診断等も手がけました。その後、フ
ィールドネットワークという現場でのディジタル通信の世界に仕事が変わり、全く初
めての分野にとまどいながらも周りの人たちの協力を得ながら何とかこなして現在に
至っています。最近では通信端末に画像処理装置や信号処理装置を接続して、高度な
監視ネットワークを構築するようなことも考えており、新分野での仕事の中にも過去
の経験を生かした仕事を進めています。
私が入社した1989年はバブル真っ最中であり、日本経済はその当時思いもしなかっ
た大不況に陥っています。当社も一昨年度、昨年度と2年連続赤字決算となり、今年
度赤字になれば会社の存続自体が危ぶまれるほどの危機となっています。リストラは
行わないといっていた当社でもこの業績改善のため、つい先日大胆なリストラ策を発
表しました。今や終身雇用の時代は完全に終わったといえるでしょう。このような時
代でこそ、学生時代に身につけた力が役に立つものです。数理工学という専攻の特性
上、大学院時代の研究が企業に入ってそのまま活かせるという例は少ない方だと思い
ますが、数理工学を志望される皆様には、わずか数年の在学期間中ではありますが、
幅広い分野での実力養成をされることを切に望みます。背中に背負った企業の看板で
評価されるのではなく、個人の力を評価されるようになる実力を着けるために、学生
時代という絶好の機会を有効に活用されるように願っています。
前田尚久さん
Polytechnic大学(米国)へ短期留学中(1年)
公式には暗号に関する勉強をしてくるということになっていますが、
興味の赴くまま、セキュリティやらの勉強をしています。
上記のとおり、私はPolytechnic Universityで勉強をしておりますが、この留
学と警察庁での業務との関連としては、警察庁においてはコンピュータがらみ
の犯罪対策に現在関心があり、その政策立案を行うに当たってある程度の技術
的な知見が必要とされているところにあります。例えば、不正アクセスを非合
法化しようとしたとき、不正アクセスとはなにかといった定義からはじまり、
非合法な行為と合法な行為をどのように区別するのか。また、そのような立法
化によって、どのような権利が守られるのか、さらに、立法化が行われた際に
どのような捜査手法が考えられるのかと、いったことを考えなくてはなりませ
ん。
このような、状況の中、現在私は暗号についてを主に勉強しています。
そして、数理工学科在学中に計算量に関して学んだことにより、現在暗号の
勉強をする上で欠くことのできない基礎的素養が身に付いたのではないかと思っ
ております。
松岡孝之さん
平成2年修士修了(工業数学講座(現、力学系理論分野))
東京海上火災保険(株)
東京海上あんしん生命保険(株)(出向中)
私は88〜90年の3年間、工業数学講座(現:応用数学講座(代数・幾何学分野))
でお世話になり、その後東京海上火災保険株式会社に入社、現在グループ会社
である東京海上あんしん生命保険株式会社に出向勤務しています。
数理工学は、色々な分野の研究室があり、また、数理という性格からか就職
先の業種が特定される事があまりないため、就職先が多岐に渡っている方だと
思います。ただ、私のよう修卒で金融方面への就職は別の意味で珍しいと思う
ので、私の文章が果たして参考になるのか良く分からないのですが、私なりに
研究室時代のこと、勤めている会社の仕事のことを紹介させていただきます。
私の在籍した研究室では、別ページの「研究内容紹介」にもありますように、
微分幾何学や力学系を主テーマとした研究を行っています。私がこの研究室に
入ったのは、学部の3回生のときの特別ゼミで相対論を研究している教官から
微分幾何学を教わったのがきっかけでした。
修士課程では、授業と試験の他、研究室での活動は、週1回の専門書の輪読
と、コロキウムという各自の研究内容の報告・発表会への参加、そして修士2
回のときの修士論文というものが主なものでした。
専門書の輪読は、担当教官の指導のもと、学生が持ち回りで担当の部分を勉
強して説明を行うもので、確か学部4回の時は群論の初歩、修士1回の時は
「多様体の微分幾何」という本を勉強しました。定義−命題−系−定理といっ
た一連の流れとその証明を丁寧に追って行くオーソドックスなもので、自分が
担当のときは、証明を自分で説明できるレベルまで理解しなければならなかっ
たことと、担当教官について懇切丁寧に教わったこともあり、これは大変ため
になりました。
保険業界には、「保険数理」というものがあり、これは、生命保険、損害保
険や年金の商品設計や、生命保険における配当金水準の決定、さらには保険会
社の経理・財務についての分析まで、主に確率・統計の手法をこれらに応用す
る技術を一般的にいいます。「保険数理」の専門職として、アクチュアリーと
いう資格があります。 私はアクチュアリーではありませんが、以前、自動車
保険の保険料率関係の仕事に携わっておりましたので、自動車保険の料率につ
いてのトピックをご紹介します。
ご存知かと思いますが、自動車保険には、対人(対物)賠償保険、傷害保険、
車両保険等があります。これらの保険料を算出するために、数千万台の自動車
保険契約の契約データ、支払保険金データを使用しています。
保険は、製品とは違って原価というものがなく、契約時に保険料が決定し、
契約が始まって事故が生じた時に保険金を支払うこととなるので、契約が終了
するまで収支は分かりません。従って保険料は予測値をベースに算出せざるを
得なくなっています。実際には、過去のデータを基に計算した損害率(「損害
率」=支払保険金を収入保険料で除したもの)等のデータから今後数年間のト
レンドを予測し、保険料を算出することになります。
また、自動車保険の保険料は、事故歴、自動車の用途・車種、年齢条件等の
料率区分により細かく決まっています。これは比較的リスクの近いものをグルー
ピングしてより契約者の公平性を図ろうというものです。この料率区分毎の保
険料についても、現行の区分が適正か、各区分の料率水準が適切か等の検証が
必要です。検証の結果に応じて水準見直しを行うことがありますし、リスクが
均一になるような適正な料率区分があれば新たに設けたりもします。
そのために各社とも工夫を凝らした独自商品を開発し発表するようになりま
した。保険料率についてもたとえば先のような保険料算出で会社独自に保険料
水準を決定しているところが出ておりますし、料率区分についても、新たな区
分を設ける会社が出ております。今後は、競争に促されて保険数理の手法が、
ますます重要視されて発展していくのではないかと思っています。
松崎健一さん
中川義之,
西田大,
岩崎哲也,
吉持敦史 他
生産・物流シミュレーションによる工場診断コンサルテーション
生産・物流シミュレーションって何?
低成長時代における、製造業の生き残りをかけた生産・物流コス
トの徹底的削減という時代背景の下、生産性向上へ向けた最適(安価)設
備投資計画の策定が求められています。そこで、当社では、操業改善に向
けての第1ステップとして、設備能力、生産・物流能力の診断・評価とい
う課題に対して、生産・物流シミュレーションによる問題点の摘出と対応
策案出を実施しています。なお、当社における生産・物流シミュレーショ
ンの詳細についてお知りになりたい方は
こちらをご覧下さい。
で、私のやっていることは
私は生産・物流シミュレーションにより工場診断コンサルテーショ
ンを実施しています。例えば、当社が新工場を建設する際に、そのレイア
ウトや設備能力を生産・物流シミュレーションにより事前に検討し、最適
(安価)設備投資計画の策定に寄与しています。また、既存の工場に対し
ても、設備能力や操業方式を生産・物流シミュレーションにより検証し、
増産対応策を案出しています(例はこちら)。
生産・物流
シミュレーション他に、データ分析による受注量予測にも携わっています。
例えば、納期が短い製品の受注量を予測して受注前に製品を生産する際の、
高精度の受注量予測モデルを開発しています(例はこちら)。なお、当社における
データ分析の詳細についてお知りになりたい方はこちらをご覧下さい。私のやっていることと数理で学んだことのつながりは
学生時代に数理で学んだことは生産・物流シミュレーションやデー
タ分析とは直接は関係がありませんでしたが、生産・物流シミュレーションを
製造現場にて実践するに当たっては、数理で学んだ理論、すなわち数学的思考
が役立っていると思います。例えば、待ち行列理論などは、シミュレーション
を実施するまでもなく自明である事実の把握などに役立ったと思います。数理
で学んだ理論が間接的ではあれ実践で役に立ち、嬉しかった反面、もっと勉強
していれば良かったと反省しきりです。
その他のつながりは
学会やセミナーなどに積極的に参加し、上記の生産・物流シミュ
レーションやデータ分析の他に、最新OR技術動向の調査にも励んでいます。ま
た、離散数理分野でも研究されているタブサーチなどの有用性について、先生
や学生さんを当社にお招きして、ディスカッションしたりもしています。