卒業生の声
卒業生の方々から現在の仕事や数理工学専攻についての声をお寄せいただきま
した。(50音順)
井上徹さん
2002年3月制御システム論分野(片山研)、修士課程修了
現在の職場: 住友電気工業株式会社 IT技術研究所
私は現在、ギガビットで伝送するアクセス系光ネットワーク機器の研究開発に携 わっています。光ファイバを用いたネットワーク上で、一部の伝送路を複数のユー ザでシェアするようなシステムなのでそれぞれのユーザから送るデータが衝突し てしまわないような送信時間の割り当てアルゴリズムを考案し、それを組み込み CPUで実装するような仕事です。また、それに関するIEEE802.3という標準化委員 会に参加し、通信プロトコル作成に参加させてもらってます。
○ 数理工学で学んだことと現在の仕事との関わり
大学院では制御システムに関する理論およびその理論を検証するためのシミュレー ションを研究していましたので、現在の仕事に直接関係していたわけではありま せん。しかし、論文を読む、伝えたいことをプレゼンテーションするということ に関しては研究室で学んだことが大きく役に立っていると思います。修士論文を 英語で書くということも英語で文章を書く場合に役に立っています。また、数理 工学にはいろいろな講座が集まっているので、自分の専門でなかった分野に関し てでも情報学関係の授業で少し習ったことがあるような分野も多く、新たに勉強 する分野でも少なからず役に立っています。つまり、数理工学は私に専門分野の 深さのみでなく情報工学に関する知識に幅を与えてくれたものであり、現在の私 の基盤を形成してくれたものであると大きく感謝をしています。
岡家豊さん
2002年離散数理分野(茨木研)修了
現在の職場: NECソフト株式会社 サーバソリューション事業部 Linux グループ
私が所属しております NECソフト株式会社サーバソリューション事業部 Linux グループでは、Linux サーバを用いたソリューションの提供、SI 業務、 HPC (High Performance Computing) の研究などを行っております。
入社後一年間、私は以下の 3 つの業務を行いました。
○数理工学で学んだことと現在の仕事との関わりなど
開発業務、特に高負荷が予想されるサーバ・アプリケーションの設計・開発にお いて、効率的なアルゴリズムとデータ構造の知識は大変、重要になります。
どんなに高性能なハードの導入や正しい処理を行っていても、非効率的な処理の ため、サーバに障害が発生することは、実際の現場では数多くあります。そうす ると、ソフトウェアの信頼性のみならず、会社の信用まで失うことになります。
現在、IT 関連の技術が世間一般のインフラだけでなく、政府や金融などの高 度な信頼性が求められる分野にまで導入されてきております。これからの時代、 顧客に満足いただき、ひいては会社が生き残るためには、ただの力押しではなく、 よりスマートな方法・考え方によるソリューションを提案できる力が開発の分野 のみならず様々な業務において必要だと思います。
茨木先生の研究室で私が学んだ知識・考え方は、まさに このニーズに応えられ るものと日々の業務の中で感じております。
最後になりますが、研究室の先生、先輩方および同期、後輩達の研究に対する姿 勢や探究心を目の当たりにできたことは、今までの私の人生の中で、一番大きな 宝だと思っており、大変、感謝しております。
本気でそう思えるくらい熱い漢たちがここに集っています。
結局、私が学んだ一番 大きなことは、言葉は悪いですが
『自分の夢に対して諦めの悪い人間』
であることが重要だ、ということだったのだなと感じている今日、この頃です。
(先生方、教育方針と異なっていれば申し訳ございません...)
○学生の方々へ
社会人になると学生の時と異なり、自由に使える時間が極端に減ってしまいます。 そうすると やりたいことが山のようにある場合、睡眠時間を削らざるを得なく なります。
学生の方々には、若くて一番 時間の取れる時に、自分のやりたいことを見付け、 目的意識を持って取り組んで欲しいと切に思います。
また、知識や技術も必要ですが、最終的に一番、モノを言うのは【気合い】と 【体力】です。
陳腐な言葉ですが
『大学で学べることは学問だけでない』
と私は思います。私自身、あまり実践できていないことで恐縮ですが、学生生活
を通して、自己の体調管理や自分を動機付ける術を学んでください。
学問だけでなく、この点に関しても様々な先生方、先輩方から大いに学べる筈で
す。
竹口英樹さん
2003年3月最適化数理分野 (福嶋研)、修士課程修了
現在の職場: 富士通株式会社
現在私は富士通株式会社に勤めております。富士通と聞くと、パソコンメーカー というイメージを持っておられる方が多いかもしれません。確かにそれも我が社 の重要な一分野ですが、最近はソフト・サービスの分野が売上の約半分を占める 主要分野になっています。そんな中で私も、ソフト・サービス事業を支えるSE になるための研修を受けているところです。
(2)研究室で学んだことと業務内容の関係
私は学生時代、最適化数理分野 (福嶋研) に所属し、待ち行列理論に関連する研 究に携わっていました。この分野はシステム設計と少なからぬ関連性があり、先 輩SEの中には、待ち行列理論を実際に応用した設計をした事がある人も少なくあ りません。とはいえ、私が現場の仕事に就く際に、研究・勉強してきた内容が直 接的に役に立つと期待してはいません。むしろ実際に役に立つと期待し、実感し ているのは、学生時代に培った数理工学的思考法、論理的思考力です。ビジネス の場では様々な問題が発生します。それを解決するために大切なことは、まず問 題の本質を捉えること、そしてその解決法を論理的に考えることです。また、表 面上見えている状況から全体の構造を解釈する力も必要になります。これらは数 理工学を学びさえすれば必ず身につく、というほど簡単なものではないでしょう。 しかしこれらの要素と数理工学的思考法との間には、大変密接な関連性がありま す。それを意識しながら学生時代を過ごすと、より深く数理工学を理解できるの ではないかと思います。
(3)数理工学専攻に興味を持っておられる皆さんへ
数理工学は非常に応用の利く学問です。単に専門分野に応用できるだけではなく、 その思考法そのものが広い応用範囲を持っています。上でも述べましたが、この 思考法そのものを意識しながら勉強される事で、より深いものを身につける事が できるのではないかと思う次第です。
鳥居寛さん
1995年応用力学講座(現物理統計学分野:宗像研)、修了
現在の職場: キヤノン株式会社 映像事務機事業本部
大学に入る前からコンピュータには興味がありました。数理工学を専攻すること にしたのは、ソフトウェアを作るにしても確固たる技術を元にソフトウェアを作 るようになりたかったからです。しかし、まだまだ大学・大学院で学んだことを 生かしきれていなかったのが実情です。そんな満たされない思いがうずうずとし てきて、3年ほど前に認知科学の勉強を始める(再開する?)ことにしました。 今まで勉強してきた数理工学・情報工学の知識を活用できるだけではなく、興味 を持ち始めていた心理学のことも学べる点が、この分野の魅力です。宗像教授・ 茨木教授・片山教授をはじめ多くの方々のお力添えで米国インディアナ大学の大 学院に2000年より2年間留学することができ、今までにないくらい勉強したので はないかと言うほどに勉強してきました。
昨年会社に戻り、再びソフトウェアの仕事をしています。学んできたことをこれ からどのように生かしていくかは自分にかかっているように感じます。来年には 全く新しいことをしているかもしれません。応用範囲の広い数理工学を学んでい て本当に良かったと思います。皆さんにその成果をお見せできるように精一杯頑 張ります。
渡邉鋭二さん
1995年3月工業数学講座(現力学系理論分野:岩井研)、修士課程修了
現在の職場: 日立製作所 情報・通信グループ グループ戦略本部 経営企画部 主任
現在は、日立グループにおける情報・通信分野の事業について経営の改善、効率 化を行うことを目的として、必要な施策の立案、実行と、それに伴う調査を担当 しています。例えば、情報・通信関係の日立の子会社を把握し、今後の統廃合・ 新設の方針について原案を作るといった仕事をしております。情報・通信関係の 日立の子会社(正確に言えば連結決算上の子会社・持分法適用会社)だけで、実は 100社以上あり、(なぜか)それらの正確な数を把握することすら非常に面倒な作 業を伴います。(もちろん面倒なのには真っ当な理由がありますが)このように言 葉は悪いのですが、かなり「泥臭い」仕事をしています。
○数理工学で学んだことと現在の仕事との関わり
そのような中で数理で学んだ内容が役に立っているか?と聞かれると、直接的に は「ほぼNO」です。以前、新規事業として金融工学関連の部署を立ち上げるとい うことになり、その説明を受けたのですが、事業内容としてブラック・ショール ズの確率微分法的式が出てきたときに「大学の講義で習ったなぁ」とすんなりと 受け入れることができたという経験があります。このように直接的に関係するこ とが仕事で出てきたのは、私の場合、片手で足りてしまいます。
しかし、間接的にはどうかと聞かれると「YES」です。私は研究室では数理物理 学を学びましたが、一番活用しているのは「公理系」の考え方です。哲学的になっ てしまうのですが、私と違った提案を受けたときに、「この人はどのような原理・ 原則をもととして、この提案を出しているのだろう」と考える癖がつきました。 おかげで視野をかなり広げることができたのではないかと思っています。
○最後に
最後に、私は数理というのは、非常に京大らしい「自由」がある学科だと思いま す。そんな中で自由であることの良さと、自由であるがゆえの責任の重さ、辛さ を感じ取れたことが、私が大学時代に得た最大のものかもしれません。