卒業生の声
卒業生の方々から現在の仕事や数理工学専攻についての声をお寄せいただきま
した。(50音順)
榎本章宏さん
2002年最適化数理分野 (福嶋研)修了、修士課程修了
現在の職場: ITX株式会社 2004年6月からカリフォルニア大学アーバイン校
博士課程
私が在籍しておりますITXは投資・育成会社であり、具体的には、IT・ライフ サイエンス分野における新規事業、有望ベンチャー等の発掘、有望な案件には投 資を行います。また、投資先の企業価値を最大化させるため、実際の現場に入っ て事業を成功に導く育成事業を行う会社です。私の担当は、主に投資案件の発掘 でした。数多くのベンチャー企業や、大手企業、海外企業を駆け巡り、投資案件 の発掘をしていきました。思うのは、投資案件には、非常に驚くべき技術を持つ 会社に数多く出会いました。ただ、技術は優れているものの、足りないものがあ り、その為日の目が出ないといったことを非常に感じました。
私が勤めておりますのは投資育成会社であり、数理工学の卒業生が就く研究 職とは異質なものであり、金融理論以外は数理工学と直接結びつくものではあり ません。しかしながら、福島研究室において身に着けた、特にネットワークに関 する高い専門性により投資案件の技術分析において大きく貢献できたと思います。
私は京都大学工学部工業化学出身で、滝根先生に感銘を受け、大学院より数理工 学を志望、念願叶いまして、福島研究室に配属されました。研究テーマとしては、 ネットワーク関連の調査から開始しました。私はプログラムを始め、コンピュー タの知識には自信はあるものの、ネットワークに関しては、当時無知そのもので した。しかし、優れた教官、先輩、同期の方に囲まれていた為、短期間にて高度 な知識を身につけることができました。また、他大学、企業との交流も盛んであ り、私自身も東京で過ごす事も多く、カリフォルニア大学アーバイン校へ訪問研 究員として、半年を過ごす機会も与えられました。非常に充実した修士の2年間 であったといえます。その後、私はITXに就職しました。当時から博士課程への 進学を考えておりましたが、その前にどうしても社会に出てみたいと思い、就職 を行いました。ITXでは社長面接にて、2,3年間の社会勉強の為、就職したい、そ の後、研究に戻りたいとの旨を伝え、社長より勉強しに来いとのことで就職を快 諾して頂きました。そして、2年たった今、2004年の6月よりカリフォルニア大学 アーバイン校博士課程に進学することにしました。 私は数理工学専攻に入学、特に福島研究室に配属されましたことを非常に感謝し ております。優秀な先生方、諸先輩方による勉学面でのご指導のみならず、先生 方には卒業後も、博士課程の進学について様々なご相談、ご助言を頂きました。 本当に感謝しきれない思いです。
太田史郎さん
2002年3月力学系理論分野(岩井研)、修士課程修了
現在の職場: 日立製作所 システム開発研究所 セキュリティ基盤技術研究センタ
私の所属している部署では,2000年以前は米国のDESに倣ってブロック暗号の 研究をしており,Multi2やM6などを開発しました.Multi2はBS/CSの衛星放送 に利用されており,M6はIEEE1394に利用されています.2000年以降は大容量の 通信に適した高速・軽量という特徴を持つストリーム暗号の研究開発をしてお り,Multi-S01やMUGIなどを開発しました.Multi-S01とMUGIはCRYPTREC(電子 政府対応暗号)推奨暗号に決定されており,また,ISOにも提案中です.公開鍵 暗号では,安全性証明可能で効率性に優れたHIME(R)を開発しました.
このような部署の中で,私が担当している仕事は量子情報技術のアプリケーショ ンの研究です.従来の暗号は,古典計算機を使って解読すると非常に時間が掛 ることを安全性の根拠としています(幾つか例外はあります)が,量子暗号は物 理原理を安全性の根拠に置いているために,幾ら優れた計算処理能力を持つ古 典計算機を用いても解読することが不可能である暗号として注目を集めていま す.私が担当しているのは,量子情報技術を応用して,従来の暗号技術には無 いセキュリティ機能を創ることです.
私の場合,非常に運が良い事に修士の時に研究していたこと(量子情報の基礎) と,現在の研究内容とは密接な関係があります.また,現代暗号を理解する上 で必要な基礎知識も,修士課程の授業で学ぶことができました.
社会人になると,自由に使える時間は,大学の時よりも少なくなると思います. 自由な時間が存分にある非常に恵まれた環境に居ることを自覚して,有意義な 学生生活を過ごされる事を願っています.
笠野学さん
2003年離散数理分野(茨木研)、修士課程修了
現在の職場: 三菱重工業株式会社 高砂研究所 製造技術開発センター
私の所属している製造技術開発センターは,製品を生産・製造する際に,どのように したら「高品質に」「安く」「早く」作れるかということを研究し,実際にモノを 作っている事業所を支援しています.これはQCD(Quality,Cost,Delivery)と言わ れ,どの企業でも目指していることだと思います.その中で私が入社して1年でこれ までに行ったことは,(1)公差の適正化(公差とはモノを作るときに設計された目 標の寸法からどれくらいまでのずれを許容するかというものです),(2)品質工学 の普及(品質工学とは製品が市場に出たときにどんな条件下で使用されても安定した 性能を発揮できるような設計を行うために用いる手法の一つです)の2つでした.
上に書いた2つの仕事では私が大学院で習った最適化の知識は直接は活用していませ んが,品質工学は私が学生時代には知らなかった最適化手法の一つでした.公差の適 正化とは,その本質は品質とコストのトレードオフなので,広い意味では同じ分野の ことになります.また,2年目となった今年からは私が学生時代に専門として勉強し ていたスケジューリング関係の仕事もしていく予定です.茨木研で学んだ離散数理最 適化の分野は,製造業だけではなくあらゆる分野で間違いなく役立てることのできる 有用な分野だと思います.近年,高速に発展してきているコンピュータの性能を活用 して,現実の現象や状況をモデル化して最適化するというのは,どの企業にとっても 必要とされていますし,社会に貢献することができると思います.
現在私が行っている仕事は、データベースを中心としたシステム開発や
他の研究機関との共同研究などを行っています。
入社1年目は周りに迷惑をかけないように一生懸命努力していました。
技術的な勉強もそうですが、社会人としての言葉使いやマナーを
覚えるのが大変でした。
入社2年目なのでまだまだ勉強することがたくさんありますが、
貴重な経験をしているということを感じています。
数理工学で学んだことが今の仕事と直接関係しているかと
言われると、答えるのは難しいかもしれません。
しかし、もともとこの業界に興味を持っていたことなので
学生時代に経験したことは今の仕事に役立っていると思います。
法人のお客様から、当社からの貸し出しや運用に回す資金を集めてくるのが私の仕
事です。具体的には、多額の資金をもつお客様に、その資金内容(長期運用が可能、
元本保証が最低条件など)に応じてできるだけ魅力的な運用商品を提案し、資金の預
け先として多くの金融機関から当社を選んでもらえるよう働きかけます。信託銀行の
運用商品と言うと、定期預金、金銭信託や貸付信託が代表的なものでした。しかし、
ペイオフ解禁や昨今の超低金利といったお客様にとって不利な経済状況の下では、こ
のような商品はほとんどうまみを失っており、容易には預け入れの対象とはなりませ
ん。そこで、最近では、ローン債権・リース債権等を投資対象とした流動化商品や、
デリバティブを内包した定期預金等を開発し、お客様がより高い利回りを実現できる
よう努めています。しかしこれらの商品はお客様にとって理解しにくい性質を持つた
め、販売側はこれらの商品を正確に理解し、分かりやすくお客様に説明することが求
められます。そのためには様々な専門知識や勉強が必要になります。また、セールス
手法は個人によって異なりますが、そこには多くの工夫の余地があり、柔軟に頭を使
う必要があります。多くの試行錯誤が必要な分、自らの提案が受け入れられて多くの
資金を預けていただき、お客様に喜んでいただけた時は大きな喜びを感じます。
残念ながら、現時点では私が修士課程で学んだことと現在の仕事が直接関連してい
るということはありません。仕事の紹介を読んでいただけた方はお分かりかと思いま
すが、私の現在の仕事は営業職です。足を使うことが大前提となります。しかし、こ
のような立場でも、本質的な部分で修士課程の2年間は大いに役立っていると思って
います。具体的には、物事を筋道立てて考え、結論を導き出す訓練ができたこと、そ
して論文という形で自らの作品を作り上げたことです。前者はより多くの資金を預け
ていただくためにはどうしたらよいか考える際に、後者は仕事で散々な目に合って、
自分を見失いそうになったときに支えとなっています。前者については論理的思考と
いう言葉を日頃から目にしているでしょうから、ここでは割愛します。後者について
は少し説明します。社会に出ればすぐに実感することと思いますが、仕事ができる
人、根性のある人、身のこなしの軽い人は周りにたくさんいます。しかし、とことん
数学とパソコンを駆使して、英語で本人しか(本人すら?)理解できないような論文
を書いた人はそうはいません。メーカーに就職したらそんなことはないと言われるか
もしれませんが、ちょっと考えてみてください。同じ研究室のメンバーであれば、お
互いの修論内容を完全に理解できましたか?実際はほとんどの方ができなかったので
はないでしょうか。修士論文はそれだけ各人のカラーが付き、その論文に関しては書
いた本人が一番詳しくなるものなのです。仕事で自分がダメな奴だなと思ったとき
は、「おれが一番詳しいものがある」と言い聞かせて自分を奮い立たせています。
私は現在営業を仕事としていますが、研究が嫌いでこのような仕事に就いたわけで
はありません。将来的には、制御工学を学ぶ過程で不可欠だった線形代数・微分積分
を基礎とする数学を駆使して、運用やマーケティング等の仕事に携わりたいと思って
います。しかし、自分のキャリアプランにおいて、直接お客様と対面する営業職を経
験することも必要であると考え、配属面接では敢えて本部の運用部門ではなく、営業
店を希望しました。畑違いと言われることも多々ありますが、一見何の関連も無さそ
うに見えるものごとも、その根本に流れるものには大差がないものであり、私はこれ
が特異な選択だとは思っていません。物の見方は人それぞれ異なるものですから、私
の考え方を皆さんに強要するつもりはありませんし、私の考え方が正しいと言うつも
りもありません。ただ、こだわりを失わない一方で、畑違いの分野、課題にも積極的
に取り組めるような広い視野と柔軟性を持つことも大切ではないかと思っています。
現在、ウィーン工科大学の理論物理学部の助手として統計物理の演習を担当し
たり、修士、博士課程の学生の研究指導などに携わっています。主な研究内容
としては古典および量子カオスといわれる分野が中心で、その研究対照となる
システムのひとつとして原子のレーザーによる励起というものがあります。量
子カオスという分野では系の時間発展を古典、量子力学の両面から計算し、そ
の対応関係を解析することにより、シュレディンガー方程式によって支配され
る量子の波動力学を、古典的な軌道などを用い、より直観的に解釈するという
ことを一つの目的としています。原子のレーザーによる励起過程では、原子中
の電子はレーザーとの反応により古典力学的には、その軌道がカオスを示すこ
とがあり、同じシステムを量子力学的に見ると、波動関数が古典系に対応して
カオティックに空間上に分散している訳ではなく、局在化をしめすこともあり、
さらにはその局在化が古典系での``不安定''な周期解の周りにおこるといった
ように、思わぬところでその古典、量子系の対応関係が見られることが知られ
ています。このようにカオスと局在化といったように、古典と量子で相反する
特徴を見せても、隠れたところでその対応関係が見られ、一見我々の直観に反
するようにみえることがある量子効果というものも、古典的な軌道をもとに理
解することができます。
以上のように、カオティックな系の古典的な運動方程式や、シュレディンガー
方程式を解く際には、多大な数値計算が必要となり、その際に数理工学で学ん
だコンピューティングの知識などがかなり役にたっています。さらに重要なの
は、そこで計算された数値データを解析し我々の理解に沿っているかどうか解
釈をしていくというプロセスで、その際に卒論、修論での経験が生かされてい
ると思います。在学中に``知識''を得るということも大事でしょうが、自ら問
題を見つけ、それに対する答を見つけていく過程で、新たに問題を発見しそれ
を解決していくというプロセスは研究だけではなく、あらゆる仕事にたいして
も必要になってくるので、大学での研究を通して知識だけではなく、そういう
プロセスを学ぶのも重要ではないでしょうか。その他、現在の仕事と数理工学
のより直接的な関わりとしては、私の在籍した当時は応用力学講座ではカオス
に興味を持ったメンバーが多く、ゼミなどでカオス関連の本を輪読し得た``知
識''が現在の研究の基礎になっていることも確かです。
数理工学では研究指導などのシステムがしっかり確立されていてはじめて研究
に携わる学生さんには仕事しやすい環境ではないでしょうか。ゼミ、研究会な
どが盛んで自分の研究テーマ以外のことも学べ、いまだに学会などで自分の研
究とは違う分野の話を聞いていても、そういえば学生の時にこんな話を聞いた
なあと思いつつ、予想外に理解できることもあり、そういう意味でも横の交流
がある研究室というのは非常に得るものが多いと思います。その上、研究会で
はプレゼンテーションをする機会が比較的多く与えられたこともあり、そこで
経験を積んだことによりプレゼンテーションの能力が磨かれたのではないでしょ
うか。国際学会では研究発表の内容はもちろん、その発表の善し悪しにより如
何に聴衆をひきつけられるかによってその研究自体が評価される傾向にあり、
プレゼンテーションの能力が非常に重要視されています。そういう意味で、自
発的に研究会などで発表し経験を積めるような環境を選ぶのもいいのではない
でしょうか。
森貴士さん
2003年度 中村研究室、学部卒
現在の職場: 京都高度技術研究所
山下智彦さん
2003年3月制御システム論分野(片山研)卒業、修士課程修了
現在の職場: 三菱信託銀行株式会社 京都支店
吉田周平さん
1996年応用力学講座(現物理統計学分野:宗像研)、修士課程修了
現在の職場: ウィーン工科大学 理論物理学部