卒業生の声
卒業生の方々から現在の仕事や数理工学専攻についての声をお寄せいただきま
した。(50音順)
私は入社して4年目に突入したところですが,いくつかの仕事を並行して行っ
ています.その中でも主なものは社内で活用するシステムの開発です.私は在
学時代,離散数理最適化分野の中でもスケジューリングを専門に研究していま
したが,現在も社内で使用する生産計画システムの開発を行っています.三菱
重工は全国に多くの工場を持っていますが,それらの工場で何を,いつ,どれ
だけ作るか,他にも,どこで,誰が,何を使って行うか,などの計画を立てて
います.これまで現場の担当者が頭の中の知識やノウハウを元に時間をかけて
計画を立てていたものを,コンピュータを使って短時間で効率的に計画するの
が目的です.また,ユーザーが実際に操作する画面などを考える仕事もしてい
ます.
先にも書いた通り,私は大学時代に研究していた組合せ最適化の理論をいろい
ろと使って仕事をしています.専門的な話をすれば,局所探索法などのメタヒュー
リスティクスを利用して,最適化のロジックを考えています.私が数理工学専
攻を選んだのはかなり何気ない気持ちからだったのですが,自分の専門分野と
して,仕事でも活用できるようになれたことは非常に嬉しく思いますし,お世
話になった先輩や先生方には感謝の気持ちでいっぱいです.数理工学のよいと
ころは,幅広い業種で必要とされていることだと思いますので,すぐには直接
役立たなくても,いつかどこかで役立つ分野だと思います.
この文章を読まれる方は,数理工学を専攻しようかどうか迷っている方,就職
先を検討している方などいると思いますが,数理工学は先ほども書きましたが
勉強していて損はない学問だと思います.私個人のことを言えば,いろいろな
ことを幅広く勉強したというよりは,組合せ最適化の分野を集中的に研究しま
したが,今からすればそれはよかったと思います.会社に入って,一つでも自
分の武器があることはいいことだと思います.また,学生時代は勉強も大事で
すが,たくさん遊んでください.勉強をたくさんしてもまだ時間はたっぷりあ
ります.私は,M2の夏休みに友人と約4週間ヨーロッパに旅行に行きましたが,
その時に行って本当によかったと思います.社会人になるとそれだけの期間行
くことはまず無理でしょう.勉強に遊びに,ぜひ有意義な学生生活を送ってく
ださい!
半導体業界のLSI設計者は,年々加速傾向にある製品サイクル
に対応することが求められています.設計者達が顧客の要求す
るチップを早期に開発するために,私は再利用可能な設計資産 (
IP,Intellectual Property ) の開発やその検証を行っています.
特に,マイコンを用いたIPの開発を中心に行っております.
数学,物理学,情報科学などと多方面の勉強をしました.
その中で特に,アルゴリズム開発に関する知識が現在の仕事に
活かせていると考えます.物理学の知識も,半導体の基礎を勉
強する際に役に立ちました.
数理工学専攻で要求されるレベルは高い方であると考えて
いますが,難しい事を勉強し,また研究していく姿勢は,社会
に出て必ず役に立つ「適応力」を身につけることができると確
信しています.
弊社は中東や東南アジアから天然ガスを調達してお客様にご提供しているわけ
ですが、エネルギーの価格というのは日々変化致します。ここ数年、エネルギー
価格は過去に類を見ない程乱高下しており、弊社の収益もその影響を少なからず
受けることになります。こういった背景のもとで、弊社の収益が将来どの程度変
動するか、さらにはその変動を抑えるためにはどのような金融商品を売買すれば
よいのか、といった内容の業務に携わっています。
現在の仕事と大学時代の研究との直接の関わりはありませんが、エネルギー
価格の推移を表したモデルの理解など、確率過程の知識を必要とする場合もあり
ます。そういった面では物理統計学研究室で学んだことが活きているといえます。
大学時代に幅広い交友関係を持っておくことは大事だと思います。
社会人になり、昔の友人が頑張っている話を聞くと「自分も!」という気になり
ますし、他の業界の話を聞くことで自分自身の成長にも繋がるはずです。皆様も
ご存知の通り、京大は自分の時間を自分の思うままに使うことのできる数少ない
大学です。その時間を是非有意義に使って、今後の人生に役立ててください。
私は2005年3月に数理工学専攻博士後期課程を修了し,
現在,エンジン制御の先行開発に関わる部署に在籍しています.
まだ入社したばかりですが,
問題解決に数理工学専攻で得た知識を活かせる場面が日常的にあり,
非常に助けられていると感じています.
例えば,制御プログラムの開発においては,
制御対象のモデリングやパラメータ同定,内部変数の推定など
制御理論(古典・現代制御理論から最先端の理論まで)の知識が不可欠です.
排気ガス規制などの様々な制約条件の下で最適な出力性能や運転性能を
達成するためには,最適制御や最適化の考え方も重要です.
また,車載ソフトウェアは10年以上にわたって多様な運転環境でも
安全に稼動できなければなりません.
バグなどのソフトウェアの安全性検証には,
離散数学や数理論理学などの知識が必要です.
開発ツールに関しては,データ解析にはMatlabやSimulinkを
日常的に使っていますし,ソースプログラムでC言語に接する機会も多くあります.
このように,数理工学専攻で学んだ知識は決して机上の空論ではなく,
制御ソフトウェアの開発現場でも実効をあげています.
近年,制御ソフトウェアの規模は著しく増大しており,
その品質の確保に膨大な工数が割かれています.
ところが,エンジン・シャシーなどハードの設計技術者と比較しても,
ソフト技術者の数はまだまだ十分とは言えません.
このような背景から,数理工学などのソフトウェアの素養を持った技術者に
対する需要が非常に高まっているように感じます.
最後に,会社で仕事を遂行するためには,
専門分野の異なる多くの技術者や試験担当者の理解がなければなりません.
このためには,論理的でかつどんな相手にでも伝わるような
コミュニケーションの能力が重要になってきます.
この能力は,日本語や英語の読み書きや会話力,
人前でのプレゼンテーション能力をも含みます.
院生時代には大量の論文を読んだり,英語で文章を書いたりしておりましたし,
学会発表など自分の研究成果を発表する機会も多くありました.
こういう点は現在でも大いに役立っているように思います.
これから数理工学専攻への進学を考えていらっしゃる方には,
以上述べさせて頂いた点について是非知っていて頂きたいと思いますし,
数理工学専攻に現在在籍していらっしゃる方には,
自らの専攻に自信を持って積極的に学び続けて頂きたいと思います.
近年、これまで思いもよらなかったような巧妙・大規模な犯罪が増加し
ており、安全な本人認証技術が要求されています。それらは同時に、持
ち物や記憶に頼らない、万人に受け入れられる認証方式であることも要
求されます。このようなニーズへの一つの解が、生体認証技術です。現
在、私は日立製作所のシステム開発研究所というところで、物理セキュ
リティと情報セキュリティを連携するシステムの研究・開発をしていま
す。
今の仕事は主に、種々の技術を組み合わせたシステムを作る、という内容なの
ですが、
種々の要素技術を使いこなすためには、その技術で何が出来るかのみでなく、
どのようにその技術が作られているか、というレベルの知識も要求されます。
そうした深い理解のために、幅広い分野の論文を読むのですが、それらは画像
処理、統計解析、暗号といった分野の論文です。当然、各種の数学がベースに
なっており、解析学・代数学や、時には幾何学の勉強を適宜しながら読むこと
になります。こうした幅広い文献を比較的少ない苦労で読み進められる、とい
うのが、数理出身者の強みかもしれません。
数理、特に力学系理論分野研究室では、人に恵まれていたと思います。
先生方の幅広い知識やアドバイスを、「必要にして十分な」だけ受けられたこ
と。
向学心に富んだ先輩や同級生との議論で、自分には無い視点からのものの見方
を学んだこと。
後輩がやっている研究に首を突っ込むことで、知識の幅を広げられたこと。
成長する機会を十分に与えてもらえる環境でした。
学生の方に、一つだけ注意して欲しいことがあります。
色々な活動をするのは良いのですが、岩井研に在籍するにあたって、コロキウ
ムに本気で臨むことが非常に重要だということです。
会社に出てから、コロキウムのときのように親切に先生方が教えてくれること
はなかなかありません。
他の人からの質問にも、その場では答えられないでも何とかなる、というのは、
学生の時のみかもしれません。
また、会社に入ってからのプレゼンでは、人に説明をして、
「分からない」といわれたところを再度丁寧に説明する機会が与えらないこと
が多いです。
先生方は鷹揚な性格なので、あまり細かいことは言わないでしょうが、
自分が今、学ぶ機会を与えられている(あるいは、お金を払って学んでいる)
ということを自覚する必要があると思います。
私の勤めている豊田中央研究所は、トヨタグループ全体の研究所であり、自動車に関
連する技術の基礎的な研究を行っている会社です。その中で私は現在、市場における
消費者心理の分析をテーマとして研究を行っています。モノとしての自動車とは直接
関係ありませんが、魅力的な車をつくり続けていくために必要となる技術だと考えて
います。
現在の仕事では、様々な統計モデルを扱っています。その際に必要とされるのは確率
・統計の知識はもちろんですが、パラメータの推定などでは最適化の知識も必要とな
ります。そのため、今でも研究室のゼミで使っていた教科書を開くことがままありま
す。対象が消費者心理なので数理「工学」とはなりませんが、数理的な視点から物事
を考えるというのは工学に限らず役立つと思います。
京都は学生として過ごすには最高の場所だと思います。いつかまた満開の桜の下、鴨
川沿いを歩きたいです。皆さんも京都を満喫して有意義な学生生活を過ごされる事を
願っています.
笠野学さん
2003年離散数理分野(茨木研(現 永持研))、修士課程修了
現在の職場: 三菱重工業株式会社 技術本部 高砂研究所 製造技術開発センター
小林匡さん
2004年数理解析分野 (中村研)、修士課程修了
現在の職場:ローム株式会社
津崎賢治さん
2004年3月 物理統計学研究室、修士課程修了
現在の職場: 大阪ガス株式会社
仲田勇人さん
2005年3月 制御システム論分野研究室、博士後期課程修了
現在の職場: トヨタ自動車株式会社 東富士研究所 パワートレーン制御開発部
日野英逸さん
2005年力学系理論分野(岩井研)、修士課程修了
現在の職場: 日立製作所 システム開発研究所
沓名拓郎さん
2004年最適化数理分野、修士課程修了
現在の職場: (株)豊田中央研究所