卒業生の声
卒業生の方々から現在の仕事や数理工学専攻についての声をお寄せいただきま
した。(50音順)
入社以来、通信、電力系のお客様のシステム構築を担当する、いわゆるSIerをして
います。現在は電力系のお客様のWebアプリケーションシステムの設計を担当して
おり、お客様の要望をもとに、Webアプリケーションの高可用性、機密性を保持で
きるようなシステム構成の設計や、運用設計(サーバーの各コンポーネント使用率
の監視やプログラム稼動状況の監視方法の設計)を行っています。
直接的な関わりは残念ながら無しと言って良いでしょう。しかしシステム設計では、
システム稼動中に起こりうる様々な状況を想定し、その状況への対応策を論理
的に考える必要があります。このとき、力学系理論分野での研究で数多くの証明と
対峙することで培った「考える力」が十分活用されていると感じています。
ここを見ている方は、数理工学専攻を検討している方がほとんどだと思いますが、
大学院入学前に「今後の人生」をよく考えてください。入学前から気が早いと思わ
れるかもしれませんが、数理工学専攻を卒業した後は何をしたいのか、そのために
は何が必要なのか考えることで、研究に対する姿勢もだいぶ違うはずです。自身も
、大学院の時期は今後の人生を決める上でとても重要な時期だったと思っています
ので、みなさんもこの時期を大切にして欲しいです。
私は入社してから2年間は、Linuxを利用したシンクライアント
システム、BIアプリケーション等様々なシステムの開発・検証に
携わってきました。
現在は、今年2月から開始した大規模インフラ構築プロジェクト
案件に参画し、設計・構築に携わっています。
帰宅は毎日遅く、休日出勤も多いですが、やりがいと責任のある
仕事を任されていると実感できています。
研究室にいた頃は、交通需要予測のための利用者均衡モデルの定式化、
及びその数学的解法について研究していました。
その内容は、現在の仕事内容と直接的な関わりは全くありませんが、
そこで学んだ根底にある考え方はどのような仕事をする際にも役立つ
武器になっています。
現実を正確に表現している数学モデルを作成しても、解を得るのが
不可能であったり、解を得るために必要な時間が非現実的なほど膨大
であれば、現実の問題に対して何の役にも立たず、モデルとしては
失格です。
意味のある数式モデルとは、必要な情報を保持したままで、問題を
複雑にする要因をできる限り取り除き、現実的な時間で解を得られる
形に定式化したものです。
そのようなモデルを作成するには、非常に高度で緻密な論理的思考力
に基づいた発想が求められます。
研究を通じて、そのような論理的思考力、発想力が鍛えられました。
社会人になってからも、学生時代から毎年参加していた「京都シティ
ハーフマラソン」に参加しています(現在6年連続参加中)。
今年も走りながら京都の街並みを眺め、京都は本当に風情ある良いところ
だと感じました。京都での学生生活は語りつくせないほどの思い出が
あります。
しかし、社会人になって痛感していることが一つあります。
それは、時間が有り余るほどある学生時代にもっと勉強しておけば
よかったということです。
優秀な教員スタッフ、ドクターの先輩Etc... と、勉強するには、これ以上
ない最適な環境が数理工学の研究室にはあります。
バイトやサークル等に、より多くのエネルギーを注いでいる学生(私の
学生時代がそうでしたが)に特に言ってあげたいことですが、学生時代
にしかできないことを精一杯やることも有意義ですが、勉強できる恵ま
れた環境にいるということ、社会に出ると自由な時間が著しく減ること
をしっかり認識して、学生のうちに学べることを出来る限り学び、将来
に向けての自分の専門性を深めると同時に、知識・興味の幅を広げてお
いて絶対に損はありません!
若い学生時代に、遊びに勉強、すべてに対して全力で頑張ってください!
私は、数理工学専攻を平成19年3月に修了後、
同年4月より東京大学大学院情報理工学研究科において
助教として勤務しています。
助教の重要な業務内容のひとつとして、
研究室のスタッフや学生が研究をスムーズに遂行するための
マネジメント業務があります。
具体的には研究環境の整備、計算機管理、
学科や専攻との連絡、物品の購入など挙げたらきりがありませんが、
これらの業務を研究室の大学院生と分担しながら行っています。
私自身が一研究者として成果をあげることよりもチームとして
成果を残すことを念頭において行動しています。
さらに、上記のマネジメントに加えて、工学部計数工学科の
学部生の教育も行っています。
私の場合、4年生の個人指導や3年生の学生実験
(倒立振子の制御、バンドパスフィルタの設計)を担当しています。
また、東京大学という性質上、
研究室や専攻が多くの企業や研究機関と連携して研究活動を行っています。
これらの活動のサポートも助教の重要な役割であると考えています。
助教や研究員といったアカデミックポストに就職したとき、
大学院での研究テーマと変わることがよくあると言われています。
私の場合はありがたいことですが、数理工学専攻でのテーマ
「ビヘイビアアプローチに基づくシステム制御理論」を継続して
研究させていただいています。
一方で、所属する研究室のメインテーマとして、
ネオサイバネティクスと呼ばれる量子、通信、生体などの
新分野へのシステム制御理論の展開を図っています。
私の努力不足で反省すべき点ですが、
これらの分野は大学院時代にはあまり意識して勉強していませんでした。
よって、学生が自発的に興味をもって研究できるように、
そして私自身のバックグラウンドを広げるためにも、
上記の分野に対して学術論文、教科書、インターネットから
テレビ番組に至るまで多様なメディアを使って情報収集しています。
しかし、このようなことはどの職業についてもあることだと思いますし、
数理工学専攻で身に着けた数理的な思考や英語論文の読解、
あるいはプログラミングやプレゼンテーションのスキルといったものまで
全てが実を結ぶはずです。
また、私が担当する工学部計数工学科は、
京都大学の工学部情報学科数理工学コースに相当する学科です。
したがって、工学上の問題に対する数理的なアプローチという観点からは、
教育の方向性に大きな差はありません。
この点からも、学部生の授業には数理工学専攻での
経験がだいぶ役立っていると言えます。
当たり前の話ですが、卒業論文、修士論文や博士論文は
一生に一度しか書けないものです。
就職後も研究をしたり論文を書いたりすることは十分可能ですが、
これらの論文は二度と書くことは出来ません。
限られた時間の中で物事に必死に取り組むことによって、
自分の枠を打ち破り新たな可能性を見出せることが、
学生の価値であると私は考えています。
自分がいま学生としてどのようなことを考えているのかを大切にして、
自分にしかない素晴らしい作品を作り上げてほしいと思います。
私の所属する研究部では,「いつでも,どこでも,だれでも」情報技術を利
用可能な社会(ユビキタス社会)の実現を目指しています.そのため既存の計算
機システムやネットワークなどでは困難な課題を克服するために,ユビキタス
社会で要求される条件をどのように満たすか,そしてどのような今までに存在
しない新しいサービスを生み出すことができるか,を研究しています.
私が大学院で研究していた内容は統計力学と情報理論の周辺であり,実務で
直接この研究を行う場面はほとんどありません.しかし基礎研究で得た知見は
本当に幅広い場面で使うことができます.具体的な例を挙げると,学習理論・
時系列解析・実社会現象のモデル化,などが必要な場面でそういった知見を利
用しました.これらはどれも技術系の仕事をする際に頻繁に利用される手法です.
1つの仕事で生涯を終えることはほとんどありません.どんな分野の問題を
解く必要に迫られても使ってみることのできる知識があることを,とても心強
く思っています.
研究でどのような問題を解いたかということは重要ですが,より重要なのは
その問題をどのように解いたか,ということだと思っています.同じ問題を二
度解くことはありませんが,同じ手法で解ける問題は沢山あります.
問題を1つ解いたら,自分が実践した手法が他にどんな問題なら利用できる
のか,それはつまり他の問題をどのような問題に落とし込めば自分は解けるの
か,を考えてみてください.それが将来使うことのできるカードになります.
大きく2種類あります。一つは、制御システムの開発です。顧客の鋼板品質要求
は年々厳格化しています。
それに答えるべく、製鉄所の熱間圧延プロセスと呼ばれる鋼板を薄く延ばす工程
での、新たな制御方法の提案・検証・実装実験に携わっています。
二つ目は、生産計画システムの開発です。製鉄所では、顧客から受注する多岐に
わたる鉄鋼品種をうまく組み合わせて、
製造ロスが少なくするように、それら製品をどのようなまとまりで、いつ生産す
べきかの計画を立てる必要があります。
その中で私は、現状の製造実績の分析、効率的な生産計画方法の提案、生産計画
システムの開発に携わっています。
普段は研究所にて研究・開発業務を行っていますが、システムの実装段階では製
造現場に駐在することも多々あります。
研究室のゼミで学んだ「組合せ問題」「最適化」というものの見方が、仕事にと
ても役立っていると思います。
私が研究室で学んだ組合せ最適化や最適化問題を解くアルゴリズム研究は、
現状より効率的な生産計画方法の提案というかたちで、業務に活かされています。
他には、制御系設計の中で、パラメータ同定等に最適化技術を試みてみました。
また、論理的に考えを整理し伝える機会があったとこも、とても役立っています。
実際の業務では様々なものを対象とするため、「これに数理工学で学んだXXが
使えるのではないか?」と思う場面があります。
数理工学では、そういった自分のウリとなる「着眼点」を身に付けられるのでは
ないでしょうか?
また、一流の研究者の方や企業で活躍されている方々のお話をきく機会が多々あ
るのも、
数理工学が恵まれているところだと思います。
研究室に所属したとき、私の周りには、自分の好きな事(趣味)を持って、とこ
とん突き詰めている人がたくさんいました。
私も学生時代に音楽活動に関わっており、そういったことから学んだ事が、意外
に様々な場面で役立つこともあります。
皆様も実りある学生生活を送り、ご活躍されるとことを期待しています。
私は現在, LSI設計, ソフトウェア実装作業の自動化つい
ての研究を行っています. みなさんもご存知の通り情報技術の世
界は日進月歩で, 新たな機能をいち早く搭載することは製品の差
異化を行う上で非常に重要です. 一方で, 機能を搭載すべ
き機器の多様化が進み, 実装の遅れの問題が大きくなってきまし
た. 画像処理を行うアルゴリズムを例に挙げると, 実装対
象はテレビのような大型製品から携帯電話のような小型製品まで実に幅
広くなっています. それぞれの機器の特徴に合わせた実装を行う
には高度な実装能力が必要になりますが, 昨今そのような技術を
持ったエンジニアの不足が指摘されています. 機器の特徴に合わ
せた最適な実装を自動化する技術の確立は開発期間の短縮, コス
トダウンに大きく貢献できると考え日々研究に励んでいます.
現在の研究を行う上で直接関連するのは数値解析, 確率統
計, 最適化などの理論です. また, 実装対象となる
アルゴリズムについての理解が必要となることもあり, そのよう
な場合には学部時代に学んだ制御理論や画像, 音声処理について
の基礎知識が役に立っています. また, 大学時代の研究で
利用していた数値計算や数式処理ソフトウェアは現在の研究でも活用し
ています.
就職した時には「大学で学んでいたことが直接役に立つことは少ないだ
ろう. また一から勉強し直しだ. 」との覚悟でした
が, 実際には「大学時代にもっとしっかり学んでおけばよかっ
た. 」と後悔することになりました. しかし, 大
学時代に基礎的な素養を身につけておいたおかげで比較的少ない労力で
必要な理論理解が可能になっているのだ, とも実感しています.
この文章を書くにあたってこれまでの先輩方による文章を読み返しまし
たが, あらためてその多様な進路に驚かされました. 一見
異なる分野でも数理ならではの「なるほど」と納得できる視点が入って
いるから面白いものです.
私の修士での研究は現実問題への応用が見えにくいものでした
が, 目の前にある未知の領域を少しでも理解したいとの思いから
興味を持って研究できました. 今, 企業において非常に現
実的な問題に直面しながらも「なぜそうなるのか」, 「どうすれ
ば解決できるのか」を追い求める姿勢は学生時代と何ら変わるものでは
ありません. 学生時代にはぜひ幅広く興味を持って, 自分
がおもしろいと思える問題に取り組んでください.
石渡康恵さん
2004年力学系理論分野(岩井研)、修士課程修了
現在の職場:日本アイ・ビー・エム株式会社 エンタープライズ・インテグレーシ
ョン第9技術部
岡崎大志さん
2005年最適化数理分野、修士課程修了
現在の職場: 株式会社NTTデータ
小島千昭さん
2007年3月 制御システム論分野 博士後期課程修了
現在の職場:
東京大学 大学院情報理工学系研究科 システム情報学専攻 第5研究室
秦崇洋さん
2006年物理統計学分野、修士課程修了
現在の職場:日本電信電話株式会社 未来ねっと研究所 ユビキタスサービスシステム研究部
久山修司さん
2004年離散数理分野(茨木研(現 永持研))、修士課程修了
現在の職場:JFE技研(株)計測制御研究部
松井佑貴夫さん
2006年 数理解析分野(中村研)卒業、修士課程修了
現在の職場: 株式会社東芝 研究開発センター