卒業生の声
卒業生の方々から現在の仕事や数理工学専攻についての声をお寄せいただきま
した。(50音順)
住友電気工業株式会社では、
NTTが提供する「フレッツ光ネクスト」というサービス向けに宅内端末装置(ルータのようなもの)を開発しています。
私は当装置を開発する部署に所属し、
宅内端末装置を制御するソフトウェア開発業務に携わっています。
職場ではパソコンの前に座り、C言語で担当となった各種機能開発を行っています。
現在の仕事と数理工学との直接的な関わりはあまりないのですが、問題が与えられた時何が問題の本質で、
どの部分に着目すれば問題を解決できるか、という数理的な視点は常に活用し仕事に取り組んでいます。
学生の頃に勉学でも遊びでも何かやりたいことを見つけ、それらにとにかく「一生懸命に」取り組んでみてください。
「一生懸命」やることで、自分がどういうことに興味があるのか、どういう人間なのか見えてくる、と思います。
今の時間は多くのことにチャレンジし、
時には失敗することを経て多くのことを学ぶことのできる貴重な時間だと思いますので頑張ってください。
私は2003年に学位を取得し、物理学専攻(統計力学)と化学工学専攻(移動現象)で3年間博士研究員を務めた後、分子科学研究所
で助教として勤務しています。分子科学研究所は大学と同じように学術研究および大学院生の研究指導を行う機関ですが、分子科学
分野に特化しているのが大きな特徴です。また大学共同利用機関という位置づけから、高度で大型な実験・研究施設を有し国内外の
研究交流ならびに研究拠点の中心であることももうひとつの特徴です。私は日々の研究活動の他に計算科学研究センターの助教も併
任しており、微力ながらスパコン共同利用運用のお手伝いもしています。また2012年に完成される次世代スパコンのナノ分野に関す
るプロジェクトにも参加しています。
現在、私は「ガラス転移のダイナミクス」というテーマを研究しています。ガラスとは原子や分子が高密度に凝縮しかつアモルファス
な状態のことで、通常の液体や固体とは異なる奇妙な性質について主に分子動力学シミュレーションによって解析しています。またダ
イナミクスを捉えるための新しい解析手法の開発も研究課題のひとつです。この研究は実際の材料設計といったエンジニアリングの問
題に関係するだけでなく、純粋にアカデミックな観点から統計力学における難問のひとつと言われており、世界中の研究者が多数参入
し熾烈な競争が繰り広げられています。このようなガラス研究業界の様子は最近New
York Timesで取り上げられています。競争は激しいですが世界をあっと言わせたいという気持ちで研究に取り組んでいます。
統計力学において標準手法である分子動力学法、モンテカルロ法、ランジェバン方程式などの開発および発展に物理統計学分野が伝統
的に大きな貢献をしており、これらの研究に好奇心を持ったことが私の研究の基礎となっています。また研究室では対象を従来ある統
計力学の問題に限ることはなく、ニューラルネットや経済物理など幅広く含んでおり、当時大学院生だった私には常に刺激的でした。
数理工学の立場は問題の適切なモデリングにより統一的な理解をすることを得意としており、私の研究内容についても他分野との関連
を積極的に見ることができます。例えば、分子動力学法の一般解法となったシンプレクティック差分法はその基礎を力学系理論として
おり、力学系や微分幾何学の知識が必要不可欠となっています。さらには、ガラス転移に対する理論であるモード結合理論から導出さ
れる非エルゴード転移は、制御工学から見るとフィードバック系の安定性とほぼ同じ議論で理解することができます。このように一見
異なる研究分野でも数理工学から見ると共通点や応用できる点が数多くあることを認識でき、現在の私の研究活動に大きな影響を与え
ています。
数理工学専攻には世界の最先端で研究を行っているスタッフが揃っており、各分野の学問上の問題について深い専門性が養われ、民間
企業に就職する学生にも研究者を目指して進学する学生にも将来にわたり強い武器になると思います。さらに数理工学だけでなく隣接
する複雑系科学、システム科学専攻のスタッフと議論することなどによってより幅広い視野が身に付くのではないでしょうか。修士、
博士課程は研究に没頭できる最高の時期です。未知なるものに対する漠たる不安は常にありますが、混沌としたところから突然世界中
の誰も知らないことに出会った感触、これが研究の醍醐味ではないでしょうか。学生の皆さんには数理工学の学問に対する興味と好奇
心を持ち研究生活を楽しまれることを願っています。
現在、私は石油化学コンビナートでの生産計画作成に使用するシステムの開発を行っています。
最適化を元としたシステムを、化学プラントにうまく応用するために、高校以来接点がなかった化学の知識の学びつつ、
実務担当者が使いやすいシステムの作成に日々取り組んでいます。
化学プラントの中には最適化問題を応用できるものも多く、現在取り組んでいるシステム開発も大学で学んだ最適化の知識を行かせる仕事です。
もちろん、研究のように理論的な美しさよりも、実用に合わせた地道な改造などの泥臭い部分の方が多いですが、
研究室で学んだ知識を仕事にダイレクトに行かせる環境は非常に幸運だと思っています。
会社に入ると、日々の仕事に追われて、学生時代のようにじっくりと考え抜くための時間がどんどんなくなってきます。
私のように、研究に直結した仕事をする人ばかりではないと思いますが、徹底的に理論を突き詰める習慣を身に着けておくことは、
どんな仕事にも生かせる貴重な能力だと思うので、一生懸命研究に取り組んでください。
プライベートでは、学生の最大の長所である長期間の休みを生かして、とにかく遠いところへ旅に出るのがお勧めです。
私は現在、シミュレーションを用いてロボットの挙動を最適化するという業務に
取り組んでいます。実機の動作をバーチャル上で再現し、数値計算によって最も
コストが小さくなるような駆動方法を提案することが目的です。いくつものソフ
トウェアを活用する必要があるため、現在はその操作方法を学びながら業務を行
っています。
現在は基本的な数学が中心ですが、今後は制御や最適化などが関わってくると考
えています。機械や回路を設計するというよりは、機械をどのように動かすべき
かを検討することになるため、まさに数理工学的な考え方につながっていると思
います。学生時は、主に汎用的な理論について学んできたので、それがどのよう
に製品へ具体的に適用できるのか考えていきたいです。
社会人になって難しいと感じることは、スケジュール管理です。一日に複数の業
務が入ることも多く、それらを業務時間中に行い、かつ最後には期限を守って目
標を達成しなければなりません。なので、どの業務にいつどれくらいの時間と労
力をかけるかを、自分で作業レベルまで落としこんで計画しておく必要がありま
す。このことは研究や学生生活でも同じことが言えると思いますので、ぜひ今の
うちから意識して、充実した学生生活を送ってください。
私はネットワークセキュリティの技術を研究している研究チームに所属
しています。現在の仕事は主に応用技術寄りの研究テーマで、暗号技
術や通信プロトコルといった様々な要素技術を組み合わせて、どうすれ
ば利用者の利便性を損なわずに堅固な認証を行うことができるか、利
用ケースに応じて最適な方式を検討したり、そのプロトタイプを開発して
評価したりしています。
セキュリティ技術や、ネットワーク技術を扱っていますと、統計学の知識
は非常に役に立ちます。また、線形計画法などの最適化に関する知識
は、計算時間の都合などにより実際にそのものを適用できない場合に
おいても、バックにある知識として持っていて心強いです。岩井研では、
量子情報理論を研究させて頂きましたが、残念ながら今のところ仕事と
直接の関わりはありません。しかし量子計算機は暗号と深い関わりがあ
りますので、今後量子計算機が実用段階に入れば、非常に役立つこと
があると思います。(セキュリティ屋にとって量子計算機は関心事の一つ
です。)
仕事柄、数理で学んだ知識を活かせる場面は多々ありますが、なにより
大きく役立っているのは、自らの研究やコロキウムへの参加を通じて、未
知の分野に対して数理的にアプローチする手法や、他者の研究への興味
の持ち方、意見の聞き方を学ぶことができたことです。仕事の中で、必要
だが自分が全く知らない分野というのは、そのときの仕事が研究寄りであ
るか開発寄りであるかに関わらず出てきますが、それに出くわした時どの
ように対応するかという基本的な指針を自らの中に持つことができたのは
非常に大きいです。
現在はまだ新入社員導入教育中で、C言語やJavaの復習
そして組み込み系などの基礎勉強をしています。また、研修の最後
のほうでエレベーター用ソフトウェアの開発実習があって、そちら
を楽しみにしています。
まだ研修中なので、4回生や修士のときに研究していた数値計
算は現在の仕事とはあまり関係しません。今後のソフトウェア開発
の仕事においても、恐らく数値計算の知識を直接活かせる部分が多
くないと思われます。しかし、「問題の本質を抽出する」といった
数理工学的な考え方が、ソフトウェア開発においてもとても大切だ
と思われます。例えば、要求分析について言えば、「本質的に何を
実現したいか」を正確に捉えることで、より正確な仕様決定が可能
となります。現象を扱うだけでなく、根本的な仕組みを見抜くこと
が、どの分野においても問題解決に役立つのではと思います。
研修で学んだ内容の中で、とても大切だと思っていることを2つほ
ど紹介したいと思います。
1.物事を深く考える:研究力を身につけるためには、既存の知識
を勉強して理解するだけではやはりまだ不十分です。固定観点にと
られずに、「なぜ必要か」、「普遍性や必然性があるか」などを常
に意識して思考できるための努力が必要だと思います。
2.コミュニケーションを積極的に:4回生や修士のときの研
究は、比較的に個人ワークの場合が多いかと思いますが、会社では
チームワークが非常に重要です。さらに、これからグローバル化が
ますます進んでいっております。したがって、言語や文化そして考
え方の異なる人とでも円滑なコミュニケーションを図れるための努
力が必要だと思います。
大西隆治さん
2005年離散数理研究室、修士課程修了
現在の職場: 住友電気工業株式会社
金鋼さん
2003年物理統計学分野(宗像研)、博士課程修了
現在の職場: 自然科学研究機構 分子科学研究所
関雄至さん
2008年最適化数理分野、修士課程修了
現在の職場: 昭和電工株式会社 大分コンビナート 生産技術部
杉島靖さん
2009年3月制御システム論分野(太田研)、修士課程修了
現在の職場: オリンパス株式会社
林直樹さん
2007年力学系理論分野(岩井研)、修士課程修了
現在の職場: 株式会社 日立製作所 システム開発研究所
王坦さん
2009年数理解析分野、修士課程修了
現在の職場:株式会社東芝 ソフトウェア技術センター 先端ソフトウェア開発担当