4 月1日、情報学研究科の一専攻化のため、情報学研究科数理工学コースができました。これは1998年京都大学に大学院情報学研究科が発足して以来の大きな組織変更です。 その5日前の3月27日、文化庁が東京から京都に移転(戻って?)きました。この中央省庁の移転も、明治維新以来の初めてのことです。これからは名実とともに文化の中心である京都で学ぶことができるのです。 これらの滅多にあることがない変化はほぼ同時に起きています。これらの変化が"いま"起きているのは何か意味があるのでしょうか?一専攻化とは組織の見通し(まとまり)をよくするというのが意図だと思います。ばらばらというよりは、より相互作用が生まれやすい協同現象が起きやすい組織にするという意図だと考えます。一方、京都は文化財の集積地です。ばらばらよりは集積。そこで何か新しいものが生まれるという地であります。
これらの変化は一見全く関係のない偶然の一致の様に見えます。しかし数理(工学)を学ぶものは、蛍の点滅が同期して起こる様に自然現象には"引き込み"という協同現象があり、一見バラバラに動いていたものが相互に作用すると"同期"する(同じ変化をする)ことを知っています。この同期現象を通信に応用する研究もされています。またその同期現象が起こる数理的なメカニズムも解明しつつあります。多くの人があとからこの時のことを時代が変わる転機点であったと呼ぶかもしれませんが、我々はこの"偶然の一致"がもしかして"引き込み"という協同現象ではないかと"数理的想像"をたくましくし、さらにはその数理的メカニズムを解明し、それを工学だけでなく、(社会)システムや社会現象にも適用しようと考えているのです。我々は自由です。何ものにも束縛されません。数理の適用範囲は工学の特定分野に限定されないという普遍性が我々数理工学の強みです。
今年の春も京都は多くの観光客で賑わっています。先日も共同研究者が来た時、東山三条あたりで宿泊すると最低でも一泊3万円を下らないと言っていました。ダイナミックプライシングです。価格を変えることで需供の調整をするのです。ここにも数理が関わってきます。ダイナミックプライシングはホテルや飛行機などだけでなく、鉄道インフラなどより広い領域に使われ始めています。多くの人は高い、安いと感じるだけで設計する側も試行錯誤を繰り返している様に見えますが、数理工学の理論によって、この価格が最適値かどうかあるいは公正な価格であるか否かを評価することができる様になります。 諸行無常は不変の真実です。ただ、その数理工学の理論はその変化を傍観するだけでなく、変化の数理的意味や背景といったことを考えることができます。またこれらのデータに潜む特徴を可視化することもできます。皆さんと一緒に、数理工学の新しい可能性を切り拓いて行く、そしてそれが京都から世界に広がる。「夢なき者に理想なし, 理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし。」(吉田松陰)とも言います。ここではこの情報学研究科数理工学コース発足の日に一つの夢を披露させていただき、挨拶の代わりとさせていただきます。
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