卒業生の声
卒業生の方々から現在の仕事や数理工学専攻についての声をお寄せいただきま
した。(50音順)
私の在籍しております近畿日本鉄道株式会社は鉄道事業をはじめとしまして、
レジャー事業、不動産事業など様々なサービスを提供しています。
情報システムとしましては、近鉄グループのコンピュータシステムの設計・
開発・運営の業務を請け負うほか、経理事務の受託など幅広い情報処理サービ
スを提供しております。
ただいま、研修中でして、これらのサービスを正しく提供できるように勉強
しております。
私は情報学における数理工学では可積分系のアルゴリズムという内容で、主に
数学系や解析の研究を行なってきました。
現在の仕事では、残念ながらこの研究してきた数学とは特に深い関係はありま
せんが、情報学として大学で学んだ基礎を近鉄グループの情報システムとして
十分生かせる仕事であると思います。
私の所属している部署では情報システムの構築を行なっています。具体的には社
内の利用部門の方々と会議を重ね、業務で使用するシステムの要件を詰め、シス
テムの設計、開発を行なっています。私は特に販売系のシステムを担当しており、
主に営業の方と仕事をしています。販売系となると、国内取引はもちろんのこと、
海外への輸出、海外からの輸入ももちろんあり、国内のシステムをどのように海
外のシステムと同期を取っていくか、海外の販売状況を如何に正確に迅速に把握
するかを常に意識しなければなりません。日本だけでなく、グローバルな視点で
システムを構築すると言うこの仕事はとてもやりがいがある仕事であり、貴重な
体験と思っています。
数理工学で学んだことと現在の仕事の関わりは直接的にはほとんど関係ありませ
ん。しかし、数理工学で学んだ、対象を数理モデルとして捉えるという考え方は、
システムを構築する上では不可欠な考え方であり、学生生活の経験は十分役立っ
ていると思います。また、英語の論文を読み書きすることを通して得た英語力は
海外向けの資料を作成する際、そして海外からの資料を読む際に大変役立ってい
ます。
私が社会人になってもっとも感じていることは、自由な時間がほとんどないと言
うことです。私は海外旅行がすきで、学生のころは長期休暇があるといつも長期
間どこかの国へ旅行に行っていました。しかし、社会人になると休みはゴールデ
ンウィーク、お盆、正月くらいです。その時期は旅行代金が普段の3倍近くに膨
れ上がり、それでいて旅行先も大混雑しています。さらに休みの期間も短いので、
私の長い間行きたかった南米やアフリカなどは、移動時間だけで休暇が終わって
しまいます。学生の皆さんはまだ自由な時間が好きなだけ確保できます。十分に
学生時代を楽しんでください。
私の所属する数理技術部(http://www.canon-sol.co.jp/math/index.html)は、
主に生産物流分野を対象として、OR(オペレーションズ・リサーチ)の各種手
法を活用した、数理コンサルティング、システム開発を展開しています。物流
分野では配送計画システムの構築、販売分野では需要予測システムの構築、製
造分野では生産計画システムの構築などです。私は主に配送計画システム等、
物流分野を対象とした"最適化"システムの開発(特にアルゴリズムの開発)に
従事しています。お客様と何度も相談しながらアルゴリズムに改良を加え、完
成度の高いシステムに仕上げていきますが、お客様が結果に満足いただき感謝
されたときに最大のやりがいを感じます。
大学時代も会社に入ってからもORの世界に浸っているという点で、大学で得た
知識、経験は会社に入ってからも大いにに役立っています。近年は大学でも応
用研究が盛んのようですが、企業では実際に"使える"ということを前提にして
いる点で難しさと面白さがあります。お客様ごとにさまざまな条件があり、優
先する条件もそれぞれ違っているから、アルゴリズムもかなり複雑になります。
いかにして現実モデルを組み込むか、その難しさと実際のビジネスに活かされ
るという喜びが今の職場の魅力です。また大学時代に得たことで今役に立って
いるのは専門的な知識だけではありません。それは「深く考える能力」と「プ
レゼンテーション力」です。問題の本質を追及し、得た知見を第三者にわかり
やすく説明するということは、技術者にとってはどこにいっても必須のスキル
です。
大学時代は、自分の専門的な研究は勿論大事ですが、幅広く色んな分野を学ん
でおいた方が良いと思います。情報技術分野では技術の進展が早く、いくら最
新の技術を追い求めてもすぐに陳腐化する可能性があります。それよりも、線
形代数や解析力学といった基礎分野を含めた、情報学・数理工学としての基礎
知識をしっかり身に付けている方が、将来幅広いことに役立ちます。また就職
先を選ぶ際は、企業の知名度や給与にとらわれるのではなく(こういったもの
は数年経てば変わるので)、自分の興味のある仕事ができる会社、自分の能力
を最大限発揮できる会社を志望していただければと思います。近年はどこの会
社も成果主義を導入しています。自分の能力を発揮できてこそ、会社生活が充
実したものになると思います。
弊社は制御機器およびセンサーを主力事業とする電気電子機器メーカです。現
在私はファクトリーワーカーの作業環境を改善するための一手段として、彼ら
をロボット・プレス機等の危険を伴う機械から保護するための研究開発を、米
独企業と共同で行っております。その中で、私の担当分野はファクトリー内に
十分な安全条件を満たしたネットワークを敷設し、彼らの安全が脅かされたと
きに、瞬時にそれらの機械を制御することであり、具体的には、十分な安全条
件を満たすプロトコルと制御技術・ソフトウェアの研究開発です。
私は、完全に直接的ではありませんが、修士研究で身につけたネットワークに
関する知識、確率過程論を活用しています。また、数理工学専攻では、制御工
学、情報数学、ハードウェアアーキテクチャといった情報産業では必須となる
知識の基礎を学ぶことができたことも、現在の研究開発を開始する過程におい
て非常にプラスでした。さらには知識のみならず、確率過程論、統計物理学を
基に、修士研究における問題解決のプロセスを経験できたために、新規技術領
域に対しても横断的に対応できています。
企業、大学、公的機関など問わず、自分の考えを持って行動することが望まれ
ています。そのためには、まず自分の体・頭を駆使して様々な経験を積まれる
ことを強くお勧めします。幸い、数理工学専攻、特に私の所属しておりました
物理統計学研究室では、自ら研究内容を模索する経験、自ら研究成果を発表す
る経験を得ることができました。数理工学専攻は、そういった意味で非常に有
意義な学生生活を送ることのできる環境であると思います。
私は現在ミネソタ大学でデジタル加入者回線(Digital Subscriber Line: DSL)
における転送レート最適化問題のアルゴリズムの開発研究に携わっています。
DSLの一つにADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)があり、一般の日本
人にはこちらの方が馴染みが深いかもしれません。DSLでは電話回線を複数の
ユーザーで共有する訳ですが、その際に或るユーザーの転送レートが大きくな
り過ぎると他のユーザーの通信を妨害してしまい、結果として全ユーザーの総
転送レートは悪くなってしまいます。そこで、各ユーザーの転送レートをバラ
ンス良く制御してやり、皆が満足するような配分を考えようというわけです。
このような問題は通常の手法で厳密解を求めるのが困難な上、実装に際しては
状況の変化に着いて行けるよう、素早く解を求めることが要求されます。この
ような課題に対して、学生時代に学んだ最適化の技法を適用し、より良いアル
ゴリズムを構築することを目指しています。
私の場合、学生時代に学んだ最適化の技法を、実際の問題にどう応用するかと
いう研究に従事しているので、数理工学専攻で学んだことが直接今の仕事に関
わっています。しかし、私が学生時代に従事した研究は専ら理論的なことでし
た。初めに数理モデル有りきで、それをどのようにしたら上手く解けるか、ど
のような条件の下で解けることが保障されるか、といったことが研究の主たる
目的でした。一方で、現在やっている研究は、通信という本来専門外だったこ
とに対して、自分の専門分野を適用するということを考えているため、なかな
か慣れないというのが正直な感想です。
数理工学といえば、なかなか他人に説明するのが難しい、とらえどころの無い
学問だと思われる方も多いかもしれません。実際、私も他人に研究内容を聞か
れると上手く説明できなかったりすることがしばしばあります。しかし、数理
工学は幅広い応用性を持つと同時に、社会のシステムにおいて欠かすことので
きない重要な役割を担っている学問であると言えます。実際、多くの分野にお
いて数理出身者が活躍していますし、多くの分野で数理出身者が必要とされて
います。また、論理的な考え方が身に付くのも数理工学を学ぶことによる利点
の一つだと思います。数理の学生達の中に居ると、皆、論理的な考え方を当た
り前にしているので、その重要性をあまり感じないのですが、数理以外の人と
話をすると、意外に論理的な考え方が出来てないと感じることが多くあります。
数理工学における研究課題に限らず、世の中のあらゆる問題に立ち向かうとき、
どこに本質的な難しさがあるのかを論理的に判断する力は、非常に重要になっ
てくるでしょう。そのような力が付くことは、大きな財産になると思います。
私の所属しているチームでは、金融派生商品の評価やモデル開発、といったこ
とをやっています。最終的には、実際に取引を行うディーラーに評価ツールと
して渡すのが目標です。仕事の流れとしては、ディーラーの話を聞いたり、論
文を読んだり、チーム内でディスカッションをしたりしながら、プログラムを
作成する、といったかんじになります。
金融の世界で用いられる数学は実に幅広く、確率論は当然ながら、先端分野で
はLie 環なども出てきますし、最適化のために遺伝的アルゴリズムを使ったり
もします。
数理工学で直接学んだということは殆どないですが、数理工学を学ぶ過程で、
数学やコンピュータ・サイエンスの基礎など幅広く学んだ、ということが大い
に役立っていると思います。金融工学は幅広く、数学、情報工学の知識を要求
されるため、数理工学をやっている人には相性がいいとも言えると思います。
「数理工学」とは何の関係もありませんが、せっかく京都で学生時代を過ごす
のですから、下宿と研究室を自転車で往復するだけではなく、観光名所をまわっ
てみることをお勧めします。
社会人になると、そういった時間もあまりないです。また、「京大に6年通っ
たのに銀閣寺に行ったこともない」ともなる(私です)と、会社で失笑を買い
かねませんので。
伊藤知己さん
2005年数理解析分野 (中村研)、修士課程修了
現在の職場: 近畿日本鉄道株式会社
榎本岳也さん
2004年3月制御システム論分野(片山研)卒業、修士課程修
現在の職場: 松下電器産業株式会社 半導体社
中尾芳隆さん
1999年離散数理分野(茨木研(現 永持研))、修士課程修了
現在の職場: キヤノンシステムソリューションズ(株) 数理技術部
日岡威彦さん
2002年物理統計学分野(宗像研)、修士課程修了
現在の職場: オムロン株式会社
林俊介さん
2005年最適化数理分野、博士課程修了
現在の職場: University of Minnesota
(Department of Electrical and Computer Engineering)
ポスドク研究員
松尾哲也さん
2002年3月力学系理論分野(岩井研)、修士課程修了
現在の職場: 野村證券金融経済研究所金融工学研究センター